住田孝之 年頭所感
価値創造と統合思考で激動の世界をリードする

2023年1月
WICIジャパン 常務理事
住田 孝之

明けましておめでとうございます。昨年は、みなさまご案内のとおり、世界中で、そして日本でもサステナビリティ関連情報の開示についての動きがありました。あまりに多くの動きがあり、そのスピードも速く、丁寧に把握していくだけでも大変な状況だったように思います。

その中で、欧州の動きはある意味で予想どおりで、企業が社会や環境に与えるインパクトの重要性に着目して、企業にとっての重要性と関係なく開示を求めることで制度化を進めました。財務に関するものとともに、いわゆる「ダブルマテリアリティ」を軸とした仕組みです。

IFRS財団の下に設立されたISSB(国際サステナビリティ標準理事会)が作りつつある標準では、企業にとっての重要性を軸としたシングルマテリアリティの考えをベースとしていますが、いわば開示の軸となる「重要性」に関し、理事会での議論が揺れている点が心配なところです。

最初の案では、「投資家が企業価値を評価するために重要な情報」について開示する(そうでないものは開示しなくてよい)という内容でしたが、この「企業価値」の部分が削除されたことで、ますます、マテリアリティに関する議論が今後どのようにまとまるのかが注目されるところです。

ご存じの通り、WICIジャパンでは、従来から「企業の価値創造」に焦点を当て、それにとって重要な情報を開示するべきことを主張し、それが統合報告の枠組みにも反映されてきました。IIRCがIFRS財団に統合された今、この価値創造を軸とした、統合思考の重要性をどのように新たな標準に入れ込むことができるか、それが2023年においてはWICIジャパンにとっても多くの企業にとっても最も関心が強い点だと思います。

昨年はWICIジャパンとしても経済産業省などと連携して、この点をISSBにしっかりインプットしてきました。今年は、幸いにも私を含め3-4名のWICI関係者がメンバーとなったIFRS財団のIRCC(統合報告とコネクティビティのカウンシル)などを通じて、IFRS財団やISSBにインプットをしていきたいと思います。

また、ISSBでは、一般要求事項と気候変動に次いで標準を策定していくテーマを、今後決めていくプロセスに入りますが、その候補は、生物多様性、人的資本、人権、コネクティビティの4つに絞られており、この動きも目が離せません。

国内でも、ガバナンスコードや内閣府令の改訂など、次々と動きがあり、忙しい1年になりそうです。この分野の大きな転換点を迎えている中、WICIジャパンの役割もますます大きくなるに違いありません。

我が国が、次第に質を向上させている統合報告を世界で最も多く生み出している国であることを強みにしつつ、価値創造という特に重要なポイントを、実例を示しつつ世界に発信していくことで、少しでも世界の標準に実質的なインパクトを与えていきたいと思います。みなさん、一丸となって今年も進んでまいりましょう。