北川哲雄 年頭所感
サステナビリティ情報開示の近未来図

2023年1月
WICIジャパン 代表理事
青山学院大学名誉教授
東京都立大学特任教授
北川 哲雄

2022年は恐らくサステナビリティ情報開示につき大きな進展があった年として記憶されることでしょう。IFRS財団の下部組織としてISSB(国際サステナビリティ審議会)が本格稼働し始めたと言うことがその主因です。

今年2023年はISSBの動きは加速化されることは間違いないでしょう。ここでこの動きが近未来にどのような影響をもたらすかについて三点予想してみたいと思います。

第一にISSBの活動活発化の波を受けてサステナビリティに関する企業側の情報開示が飛躍的に量的に拡大されそれだけでなく質も向上するでしょう。また企業間比較がしやすくかつ企業価値関連性・社会価値関連性両方を把握するのに有用と思われる情報が整理され新たに示されて行くことになるでしょう。

第二にESG評価機関・ESG投資家の活動も第一の動向を受けて、データサイエンスの手法も駆使し透明性・検証可能性・予測可能性のある高度なものになると思います。恐らく評価機関・投資家間の個々の企業サステナビリティの評価のばらつきは少なくなる、すなわち相関係数は上がって行くと予想されます。

さて第三点としてこのような状況の中で統合報告書は我が国では花盛りの状況にありますが、今後どのような位置づけになるかを予想してみたいと思います。

昨年(2022年)末に旧知の欧米機関投資家とオンラインですが話す機会がありました。彼らは異口同音に日本企業の統合報告書に辛口のコメントをしていました。

ある方は「綺麗ごとが書かれすぎていて真摯で謙虚な姿勢が見られない」と言ってます。「株価が割安であることをもっともらしいデータを駆使して頁を割いている」「ウエットでロジカルでない」さらに「本来手を携えるべきでない投資家に媚を売っている」という評価までありました。どこまで正鵠を射ているものかは分かりませんが無視はできないのではとも思います。

私はサステナビリティ情報開示の評価は「大学センター試験」の採点のようになるのではと予想しています。項目・業種・企業特性を加味した「開示項目」が個社別に特定化され得点化されるというものです。ここでは恐らくRoughly  な評価は自動的になされかなり有用性のあるものになります。最終的な投資家の評価は多くの国立大学が実施している「個別試験」(ここが真のESGインテグレーション体制を装備した運用機関のみができます)によって市場によって最終判断されるのではないかということです。

従って統合報告書が「大学センター試験」の高得点を目指すのか、「個別試験」を目指すのか。はたまた両方を目指すのか、これから各企業にて議論する余地があると思います。

ある知り合いのデータサイエンスの研究者が私に日欧米主要15社の「パーパス」「価値創造プロセス」の記述を解析したところ「シノニム」(同じようなことを言い換えている)に過ぎないのではと指摘していました。同時に彼はガバナンス関連の情報は日本企業が極めて貧弱であるとも分析していました。皆さんはどう思われますでしょうか。 時代は変わります。CFAにおけるESGアナリスト資格試験の内容は素晴らしいものですが企業側のSR/IRの方々も同レベルの知識・見識を持つことが望まれる時代だということです。各社がどういうスタンスで統合報告書を作成するのかが試される時代となりそうです。