対話を深め企業価値を高める統合報告
〜本当に大事な開示〜

開催要領

  • 主催者:WICIジャパン
  • 開催日時
     Day 1 2024年11月26日 18:30 – 19:55
     Day 2 2024年11月27日 11:00 – 14:20 (12時から1時間休憩)
  • 録画配信:2024年11月29日から2025年2月28日まで
  • 開催場所:ZOOM, 録画配信(Vimeo)
  • 対象:経営者、社内外取締役、事業会社、金融機関、官公庁、制作(支援)会社、コンサルタント、監査法人、社会人、学生
  • 対象部門:統合報告に直接関与する部門の他、経営企画、広報、IR、人事、サステナビリティ| ESG、知的財産、財務・経理、法務、生産、総務・コーポレート部門、その他事業部門など多様な部門からのご参加を期待しています。
  • 募集人数:200名以内
  • 受講費用
    非会員・一般: 1アクセス3千円(同一場所での複数人での同時視聴可)
    WICIジャパン会員、ESG情報開示研究会会員、政府関係者、学生(社会人学生を含む): 無料
  • 講師(敬称略): 住田 孝之(住友商事株式会社)、浅野 敬志(慶應義塾大学 商学部 教授)、村田 真理(GPIF, 年金積立金管理運用独立行政法人)、小倉 健宏(PwCコンサルティング合同会社)、千葉 小夜(明治ホールディングス株式会社)、図師 嘉文(三井化学株式会社)、檀上 翔(住友商事株式会社)、鈴木 健治(特許事務所ケイバリュエーション)

開催趣旨

 企業報告として、会計基準による財務報告と、<IR>フレームワークによる統合報告があります。サステナビリティについては、自社にとってのリスクと機会を把握し、ガバナンス、戦略、リスク管理および指標と目標を開示するというTCFDの枠組みが幅広く浸透し、対話しやすくなりました。その成果はIFRS財団のISSBによるIFRS S1, S2に取り込まれ、日本ではSSBJにより日本版S1基準、S2基準が開発されつつあります

 企業活動が社会環境へもたらす影響については、日本では「インパクト」のカタカナ表記が定着しつつあり、自社の個性に応じて、インパクト加重会計や、欧州CSRDのESRSのインパクト・マテリアリティの開示に取り組む企業もあります。

 現状、ともすれば、サステナビリティ開示や、サステナビリティ関連財務情報の義務的な規定演技の開示が先行し、価値創造の開示や、財務情報開示の充実および利用拡大が伴わない懸念もあります。

 経済産業省の「企業情報開示のあり方に関する懇談会・課題と今後の方向性(中間報告)」は、次のように報告しています。

 (懇談会では)制度開示書類(有価証券報告書、事業報告・計算書類等、コーポレート・ガバナンス報告書)と統合報告書を統合し、ワンストップで開示するべきではないかとの提案もあった。
 現在の実務において、過去情報は主に有価証券報告書に記載し、将来情報は主に統合報告書に記載するという書類の使い分けがなされていることについて、過去・現在・未来を繋ぐ価値創造ストーリーとして一つの書類で開示することが重要ではないかとの意見が示された。

企業情報開示のあり方に関する懇談会「課題と今後の方向性(中間報告)2024.6」p.7
(事務局:経済産業省 経済産業政策局 企業会計室)

 「価値創造ストーリー」は、永遠の課題ですが、企業が、対話によって社内外に理解してもらいたい何かです。特に、投資意思決定をする中長期の投資家に「将来像の現在価値である企業価値」として理解してもらいたいものです。一定の投資家は、財務情報による予測に足場を築きつつ、多様な情報から将来を推測します(※1)。

 価値創造ストーリーは「当社が、どの程度、どのように、将来キャッシュ・フローを獲得できるか」の推測に役立たないなら、その投資家が優先して参照すべき重要な情報という地位を、失ってしまうでしょうオクトパスモデルによる開示そのものは、対話を深めるツールとしての期待に応えられていないのは、2024年の率直な現状です。価値創造ストーリーを明確に示しつつ、統合的でわかりやすい財務情報の開示を充実させていくことが望まれています。一つの書類で財務報告と統合報告、サステナビリティ報告を統合することが理想の一つとされていますが、まず、統合報告書で財務情報やサステナビリティ情報も深めつつ過去・現在・未来を繋ぐ価値創造ストーリーを開示することが考えられます(※2)。

 WICIジャパンでは、未来を創る価値創造ストーリーの骨格を把握し、統合思考を組織に浸透させ(※3)、統合報告書による対話を深めるために、経営デザインシート(KDS)の活用を勧め、全5回でワークがあるセミナーを開催してきました。次は5周年であり、いままで多くの事業会社様、制作支援会社様、コンサルティング会社様のご担当者に受講いただき、それぞれに経営デザインシートで未来を描いてきました。11月26日、27日のセミナーは、そのキックオフにもなります。

 統合報告[向上]セミナー2024では、Day 1(11/26夜)に、住田孝之様から、1.統合報告の成り立ちと現状、2. 様々な国際的な開示ルール、そして、3. 価値創造に大事なことを浮き立たせる経営デザインシートについて、ご講義いただきます。さらに、公認会計士でサステナビリティアドバイザーの小倉健宏様から「統合報告書の役割と価値創造ストーリー向上のために実施すべき事項」を解説いただきます。そして、村田真理様から、GPIFの運用受託機関が選ぶ「優れた統合報告書」から、投資家が考える統合報告を紹介いただきます。

 Day 2(11/27日中)では、浅野 敬志 慶應義塾大学 商学部 教授から「統合報告書による企業価値向上のアプローチ」のご講義をいただきます。浅野先生は、『ESGカオスを超えて: 新たな資本市場構築への道標』、『サステナビリティ情報開示ハンドブック』など共著にてご執筆です。鈴木健治様から「統合報告書で財務情報をどう開示するか」報告いただきます。

 また、企業から、今までのWICIジャパン統合報告セミナーにご参加をいただいた事業会社様にお声かけし、ご参加者や現在のご担当者にご登壇いただけることになりました。Day 2(11/27)にて、浅野先生に続いて、明治ホールディングス株式会社千葉小夜様、三井化学株式会社 図師嘉文様、住友商事株式会社 檀上翔様から、 自社の統合報告の取り組みをご紹介いただきます。、

 実践編となる経営デザインシート活用の統合報告セミナーは、全5回で、2025年1月にスタートし、2025年5月22日の発表会で終了予定です。この全5回のWICIジャパン統合報告セミナーは、実際に経営デザインシートを作成しつつ、海外事例の分析や、KPIの使い方ワークなどを通じて、統合思考をスキルとして身につけて頂きます
 事業会社向けと、支援会社(監査法人・コンサルティング・制作会社)向けの2コースあります。支援会社向けのご参加者は、住友商事様、明治HD様、三井化学様などのこの発表や統合報告書を事例として、経営デザインシートの作成を体験していただきます。事業会社の方自社の未来像を自分なりに経営デザインシートで描きます。詳細はまたご案内します。

 11月26日、27日の内容は、2025年2月末まで、お申し込み者に録画配信もします。幅広い方からご視聴いただけることを、期待しております。

お申し込み

WICIジャパン会員、ESG情報開示研究会会員、統合報告コミュニティ関係者、政府関係者、学生(社会人学生を含む)の方は、こちら「WICIジャパン等 会員の方[無料]」からお申し込みください。

WICIジャパン非会員で、WICIジャパン統合報告[実践]セミナー2025(2025年1月から5月、全5回、事業会社向けコースと、支援会社向けコース)のお申し込み相談済みの企業の方(ご相談は、wici-j@kval.jp 鈴木健治までご一報ください)

その他、一般の方は、下記ボタンからPeatixのお申し込みページに移動し、チケットをご購入ください。

お申し込み期限: 2025年2月10日(月) 18:00

お問い合わせ:

(運営 鈴木健治)wici-j@kval.jp

  • 1申込で、会議室等にて複数人で同時視聴いただけます。
  • Zoomへの接続環境はご参加者においてご準備・ご負担下さい。

Day 1 – 11月26日 18:30 – 19:55 プログラム

(講師の敬称略,演題は変更の可能性があります)

講師時間演題
[18:30から19:00]
住友商事株式会社 常務執行役員 CSO
住友商事グローバルリサーチ
株式会社 代表取締役社長
WICIジャパン常務理事
住田 孝之
30分統合報告の未来~本当に大事な開示~
[19:00から19:30]
PwCコンサルティング合同会社
シニアマネージャー
公認会計士
小倉 健宏
30分統合報告書の役割と価値創造ストーリー向上のために実施すべき事項
[19:35から19:55]
年金積立金管理運用独立行政法人
ESG・スチュワードシップ推進部
ESG・スチュワードシップ推進課長
村田 真理
20分投資家が考える統合報告
~GPIFの運用受託機関が選ぶ「優れた統合報告書」より~

Day 2 – 11月27日 11:00 – 14:20 プログラム(12時から1時間休憩)

講師時間演題
[11:00から11:30]
慶應義塾大学 商学部 教授
浅野 敬志
30分 統合報告書による企業価値向上のアプローチ         
[11:35から11:55]
明治ホールディングス株式会社
IR部 IRグループ長
千葉 小夜
20 分食と薬のユニークな企業グループ像を伝える統合報告書
昼休憩60 分
[13:05 – 13:25]
三井化学株式会社
コーポレートコミュニケーション部IRグループ 主席部員
図師 嘉文
20分対話の深化を目指す三井化学の統合報告書について
[13:30から13:50]
住友商事株式会社
インベスターリレーションズ部 部長代理
檀上 翔
20分新社長、新中計を迎えての統合報告書作成について
[13:55から14:20]
特許事務所ケイバリュエーション|株式会社知的利益
経営コンサルタント・弁理士
鈴木 健治
20分統合報告書で財務情報をどう開示するか

(注・参考 文責鈴木健治)

※1 財務情報とその他の情報の関係

S.H.ペンマンは、保守的な会計の数字をよりどころ(anchor)とし、インタンジブルズによる利益等は投資家側で推測すると説示する。知っている確実なとことに錨を降ろし(足場を築き)、その地点から推測を始めるのである。
 (S.H.ペンマン『アナリストのための財務諸表分析とバリュエーション[原著第5版]』(有斐閣, 2018年)p.52, 74, 75)
 (S.H.ペンマン『ペンマン 価値のための会計 賢明なる投資家のバリュエーションと会計』(白桃書房, 2021年)p.30, 76)

※2 オクトパスモデルの課題から新・統合報告

 北川哲雄名誉教授は、オクトパスモデルについて「企業の価値創造プロセスを描写するポンチ絵としてはわかりやすいものであるが、教科書的に使用するものではない。(略)ポンチ絵はポンチ絵にすぎず、深遠な企業活動の内実を描き出すことにはならない」と述べている。また、日本の統合報告書の記述は戦略が中心であるが「サステナビリティ」「ガバナンス」「財務」の記述は「欧州企業のアニュアルレポートに比べ手薄な感じが否めない。特に「財務」は極めてお座なりである。豊富な財務データ(主要製品の売上状況も含め)を参照したうえで精緻な分析を行うことにより企業価値を算定することの重要性は昔も今も変わりない。」と説示する(上p.103)。
 その上で、開発中の製品のパイプラインや、上市した品目の特許状況と販売承認方法などの淡々とした事実(FACTの列挙)をするノボ・ノルディスク型を参照した、日本の新・統合報告書の作成を提案している(下p.56, 63)。
 (北川哲雄「日本の企業情報開示のゆくえ(上)(下)欧州企業の動向を踏まえた方向性」(企業会計, 中央経済社, 2024.10-11, Vol.76 No. 10 – 11))

※3 統合思考、統合報告と企業価値に関する既存の標準、基準、ガイドライン等

(1) <IR>フレームワーク(統合報告フレームワーク)は、「統合報告書は、 組織の短、中、長期の価値創造能力に実質的な影響を与える事象に関する情報を開示する。」ことをマテリアリティとしている。

(2) IFRS S1(サステナビリティ関連財務情報の開示に関する一般要件)は、第2パラグラフで次のように示している(仮訳)。

 「企業が短期、中期、長期にわたってキャッシュ・フローを生成する能力は、バリューチェーンのなかで、企業、そのステークホルダー、社会、経済、自然環境と関連して密接に相互作用する。企業とそのバリューチェーン全体の資源及び関係性は、一体となって、企業が活動する相互依存システムを形成している。だからこそ、サステナビリティのリスクおよび機会に関する情報は、主な報告利用者に役立つ。
 事業体がこれらの資源および関係性に依存し、またそれらに(正負の)インパクトを与えることは、企業のサステナビリティに関するリスクと機会をさらに引き起こす。」

 ISSB議長エマニュエル・ファベール氏は、2023年11月9日のIRCC会議にて、IFRS S1の第2パラグラフは統合思考の原則を深く説明するもので、基準の核であって、全体の上位に位置づけられるものだと強調した。

(3) 経済産業省「価値協創ガイダンス 2.0」は、「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス 2.0」であり、「投資家との対話を通じて価値創造ストーリーを磨き上げる価値協創を加速」させるべく、統合思考による経営と開示を推奨している。

(4) 株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」は、企業と株主の対話について次の原則を掲げている。

 基本原則5 上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである。

 そして、取締役会が開示すべき事項として、「補充原則 5−1②(ⅱ) 対話を補助する社内のIR担当、経営企画、総務、財務、経理、法務部門等の有機的な連携のための方策」とし、各部門の有機的な連携(統合思考による経営)を期待している。

(5) 投資家側からも、例えば年金積立金管理運用独立行政法人は、「スチュワードシップ責任を果たすための方針」にて、GPIFは資金規模が大きく、資本市場全体に幅広く分散して投資する「ユニバーサル・オーナー」であり、100年を視野に入れた年金財政の一翼を担う「超長期投資家」であることから、企業と投資家のエンゲージメントに次のような期待を表明している。

 「運用受託機関に対しては投資先企業・発行体との間で、持続的な成長に資する「建設的な対話」(エンゲージメント)を促進しています。エンゲージメントによって長期的な企業価値が向上し、経済全体の成長につながれば、GPIF は投資リターンの改善という恩恵を受けられます。」